無農薬のあいがと米のこと #5
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ブリューゲルの名画を思い起こさせる、熊本の景色
このトップ写真は、熊本で撮影した一枚です。偶然撮れたものですが、とても気に入っています。 なぜなら、大好きな画家ピーター・ブリューゲルが描いた『穀物の収穫』(1565年)を彷彿とさせる光景が広がっているからです。
ピーター・ブリューゲル『穀物の収穫』1565年
「完全無農薬米」への疑いと、1年間の取材
僕が取材に訪れた2010年当時、「完全無農薬のお米」なんて本当に存在するのだろうかと半信半疑でした。 連日のように偽装表示のニュースが流れていた時期でもあり、「農薬なしでお米が育つのか?」「青森の無農薬リンゴと同じような奇跡が本当に可能なのか?」という思いがあったからです。
そこで2010年2月から1年間にわたり、毎月熊本へ足を運び、無農薬でお米を育てる農家さんへの密着取材を行いました。
土をあえていじらない──「不耕起」が生む生命力
取材の中で知ったのは、無農薬のお米を作るまでに「7年」という長い歳月が必要だったということです。土壌に染みついた農薬が完全に抜けるまでの期間でもあります。
1年目、お米はほとんど収穫できませんでした。肥料などの栄養を与えないため仕方のないことかもしれませんが、この厳しい状態が3年ほど続いたといいます。田んぼの土が本来の力を取り戻し、自力で栄養を蓄えて稲に与えられるようになるまでには、それだけの長い年月が必要だったのです。
また、土壌改良においても試行錯誤の連続でした。 最終的にたどり着いたのは、「あえて土をいじりすぎないこと」でした。
一般的な田んぼでは、収穫後の冬の間に土を深さ約15cmほど掘り返す「鋤(す)く」という作業を行います。土壌に空気を含ませて柔らかくするのが目的です。しかし、『あいがと米』の田んぼでは、わずか5cmほどしか鋤きません。最も重要なのは、人間の手で余計な加減をせず、田んぼ自らの力で栄養を育む環境を整えることだったのです。

7月、活気あふれる田んぼと圧倒的な違い
田植えが終わり、自然の力で稲はぐんぐんと育っていきます。熊本の大自然も一気に鮮やかな緑で包まれます。

ここで、農薬を撒いた田んぼと無農薬の田んぼの写真を比べてみてください。違いが明確におわかりいただけるでしょうか。


上の写真は、県の指導に基づき年間計16回も農薬を撒いている田んぼです。
下の写真は、無農薬の田んぼです。
一見すると、農薬を使っている田んぼの稲の方が太く元気そうに見えます。しかし、そこにはタニシやミズスマシといった生き物の気配が一切ありません。農薬によって虫が生きられない環境になっており、農薬を与え続けなければ枯れてしまう脆さも抱えています。
一方、無農薬の田んぼの稲は、一見すると細くまばらに見えます。しかし、そこにはたくさんのタニシが生息し、虫たちが生き生きと動き回っています。
土が、生きているんです。
逞しい稲と生き物たちが織りなす「自然の循環」
無農薬の稲は、たった5cmしか鋤いていない硬い土の中に、自らの力で少しずつ深く根を張っていきます。人為的な栄養に頼らず、自力で土の栄養を吸収して育つため、見た目以上に力強い「ど根性」を持っています。
そして、この逞しい稲とタニシなどの生き物たちが協力し合うことで、美味しいお米が育っていきます。生き物たちは、実は「雑草の退治」という大きな役割を果たしているのです。
無農薬の田んぼでは、いち早く植えられた稲が自力で育ち、続いて虫たちが活発に動き始めます。その後に生えてくる雑草は、元気な生き物たちに食べられて自然と淘汰されていきます。そのため、こちらの田んぼでは草取り作業がほとんど必要ないのだと教えていただきました。
自然の恵みと生命力への感謝
無農薬米の「米の花」が咲きました。 自らの力で逞しく成長し、病気やトラブルを寄せ付けない力強い稲へと育っています。
無農薬米の米の花

しっかりと実をつけたその姿を見ると、過剰に農薬を撒かなくても、自然は自ら強いお米を育てる力を持っているのだと痛感させられます。
これこそが自然界の本来の力であり、命の循環です。大きな自然の恵みに、心から感謝した瞬間でした。

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